パパの読書感想文(20)~とんび 重松清~
戦後の昭和、不器用ながらもまっすぐに生きるヤスさん。精一杯生きてゆく家族の形をテーマにした魂の物語。涙なしには読めませんでした。本はよく読むのですが小説は久々。それにしても、読んでよかった…!!
人の親になったからでしょうか。
こういった親子の情や絆を主題にした物語は心にささるものがあります。
愚直さ、愛、信頼…
言葉にするのはたやすいものですが目で見ることはできず、触れることもできない。
☆
ある日、ヤスさんの子が、部活の後輩に怪我を負わせてしまいます。
そこで、相手の親が出てくる場面があるんですよ。
今でいうモンスターペアレンツ…と考えるとわかりやすいかもしれません。
(相手の)父親は一瞬たじろぎ、しかしすぐに体勢を立て直して、「甘いことを勝手にされたら困りますな」と言った。
「アホか、わりゃ」
「は?」
「親が子供を甘やかさんかったら、誰が甘やかすんな、アホ」
「……ちょ、ちょっと……なにを……」
「早う去(い)ねや、こら。もう話はすんだじゃろうが。アキラは詫びを入れた、あんたのガキのケガもたいしたことなかった、ええこっちゃ、三本締めじゃ。それで何の文句があるんじゃ」
父親は困惑して口をわななかせた。アキラもきょとんとして二人を見比べる。
「おう、アキラは部活に明日からも行くけえの」
「いや、そんな、あなた……」
「ガキがそんな大事なら、箱に入れて練習に行かせたらんかい!」ーー玄関の窓がビリビリと震えるほどの声になった。
ヤスさんの一喝に、父親は急に浮き足立ってしまった。目が泳ぎ、腰が退(ひ)けて、それでも懸命に、うわずった声で「ウチは被害者なんですよ」と言う。
「被害者、被害者いうて、そげんいばるな」
ヤスさんは逆に、仁王立ちするように足を踏んばり、胸をグッと張った。
「……学校に相談してもええんですよ」
「おう、なんぼでもせえや」
軽く返したヤスさん、さらに口調を軽くして、「わしはずーっとアキラの味方じゃけん、二人まとめて相手にするつもりで喧嘩しんさいよ」とつづけた。
「……親の責任はどげんするんですか」
「責任?」
(中略)
「責任より愛の方が大事じゃ」
☆
ここ本当に好きな場面なんです。
いつか同じ状況に自分が置かれたとして、なにを言えるのだろう。
ずっと考えながら、のめり込んで一気に読んじゃいました。
タイトルは「トンビが鷹を産む」のことわざから…とのことです。